眠りをつくる脳のスイッチ
とうとう今年も神無月がやってきました。
十月になると、日暮れが早くなり、夜の時間が長くなってきます。「秋の夜長」という言葉がありますが、皆さんは夜をどのように過ごしていますか?
夜になると自然に眠くなる一方で、「布団に入ってもなかなか眠れない」「夜中に目が覚めて、その後眠れない」ということもありますね。
眠りには、脳の中で働く「オレキシン」という物質が深く関わっています。
オレキシンは、私たちが起きている状態を保つために働く神経ペプチドです。脳の中でオレキシンが働いていると、覚醒状態が維持されます。そして、夜になりオレキシンの働きが弱まることで、眠りへ移行しやすくなります。
つまり、オレキシンは「眠らせる物質」というより、目を覚ましている状態を支えるスイッチなのです。
このオレキシンを発見したのが、筑波大学の柳沢正史教授です。
柳沢教授は、オレキシンの発見と睡眠・覚醒の仕組みを明らかにした功績により、今年、世界的に権威のある「アルバート・ラスカー基礎医学研究賞」を受賞されました。
そして、この発見は、睡眠の仕組みを理解するだけにとどまりませんでした。
「眠らせる」のではなく、「覚醒を支えている仕組みを抑える」という新しい発想から、オレキシン受容体をブロックする睡眠薬が開発されました。現在使われているオレキシン受容体拮抗薬は、従来の睡眠薬とは異なる仕組みで眠りを促し、依存や乱用のリスクが比較的低いことも注目されています。
さらに興味深いのは、私たちが昔から使ってきた生薬の中にも、オレキシン受容体に働きかける可能性を持つものが見つかっていること。
たとえば蓮の新芽に含まれる「ネフェリン」という成分には、オレキシン受容体を阻害する働きが研究で確認されています。昔からの生薬の知恵が、現代の科学によって少しずつ解き明かされているのです。
オレキシンは、食欲やエネルギー状態とも関係しています。お腹が空いているときには覚醒を促し、食事をすると眠くなる……。
私たちの体は、食べること、動くこと、眠ることを別々ではなく、ひとつの仕組みとして調整しているのですね。
秋の夜長だからといって、夜更かしを楽しみすぎるのはほどほどに。
朝はできるだけ同じ時間に起きて朝の光を浴び、夜は照明を少し落として、身体に「そろそろ休む時間だよ」と教えてあげましょう。
眠りは、夜になって突然つくるものではありません。
朝からの過ごし方が、夜の眠りをつくっています。
秋の夜長を楽しみながら、明日の自分のためにも、心地よい眠りを大切にしたいですね。



